反射的に椅子から立ち上がったイオタだが、シータがこちらを向き、弱々しく首を振る。
こっちに来るな、というサインなのは明らかで、イオタの存在を女に気づかせないためにしてくれた行為だ。
シータが嫌々しているだけだと思ったのか、女は観客席の方を見ずに二本目の注射を打つ。
ピストンが引かれると、赤い液体が吸い上げられ、シータはじっと注射針を見詰めて耐えていた。
我慢してるのは、ぼくのため?
イオタは何も出来ない自分が歯がゆかった。
「今日は大人しかったわね」
四本の注射器を血液で一杯にすると、女は目尻を下げる。



