あまり思い出さないようにしていたのに。
彼女の表情をみながら、僕は自嘲気味に笑った。
「ねえ、君の名前、なんていうの?」
僕にしては積極的に会話をしている。
でも彼女はきょとんとして僕を見た。
「名前…?」
しばらく考え込む。
「覚えてない」
覚えてない?
オボエが名前でテナイが名字とか。
…そんなわけないか。
「忘れちゃったの?」
僕が聞くと
「うん、忘れちゃった…それに」
と言葉が続く。
「どうしてここにいるのかもわからないの」
また悲しそうな顔をする。
「友達もいないの?」
「友達ってなあに?」
友達を知らない?本当にこの子は何者なんだろう。
「話をしたり一緒に遊んだりする仲の良い人のこと」
「仲の良い人!貴方!!」
彼女は自信を持ってぴっと僕を指差した。
はああ!?
名前も知らないのに友達?
「仲良しじゃないの?」
困惑している僕を見て彼女は首をかしげた。
僕は苦笑しながら答えた。
「仲の良くなろう。僕は藤谷カズキ。君は名前忘れたみたいだから僕がつけてあげる」
「うん!私の名前、教えて!」
教えてじゃなくて考えての間違いだよ…と思いつつ僕は考えた。