「笑ってんなよお前」

「だって面白いから」

「とりあえず黙れ」

沖野は洗剤塗れの手で俺の肩を叩こうとする。
それをひょいと避けると、俺はまた台所に向かった。

「てかさー…」

「何」

「やっぱなんでもない」

「何だょ」

「なんでもないって言ってんでしょー!いいからさっさと残りの皿とか持って来なさいよ!」

「……はいはい」

俺はもう一度部屋に戻って茶碗を重ねた。

アパート2階の狭い部屋だ。どこに居ようと会話は成り立っ。

「コップはいいよー。まだお茶飲むからー。あ、それこっち置いたらさ、机拭いて後は休んどいていいよ」

ここは俺の家なはずなんだが…?

そう思いながらも言う通りにするのは甘えだろうか。

沖野じゃなければ一言「俺がやるよ」と相手を労ると思うんだが…。

まぁいいか。

俺と沖野ならこれが普通だし。

それにしても、

「沖野さ、お前」

「何?」

「…やっぱなんでもねぇ」

多分いい嫁になるよ。

口にするのは意識してるみたいで恥ずかしかった。

本音なんだけどな。

もし口にしていたら沖野は何と答えただろう。

喜ぶか?

いや、照れて怒るだろうな。

何故か口元がニヤけて仕方ない。

「何それ、さっきの仕返し?」

「は?何のこと?」

「…何でもねーよ!ばか!」