フレームに手を掛ける。

『さぁ、解体して下さい……。真実を受け入れ、生まれ変わるのです』

「どういうことだ? もしや、君は……」


 どこからともなく電車のブレーキの音がつんざく。大きくなったそれは、やがて聴力を奪い、そして、私の思考力をも奪った。



 ──目の前で開いていた扉が閉まり、電車がホームから出発する。

 何気ない朝の通勤風景が、繰り広げられている。


 彼女はいない。

 ホームから飛び込んだ形跡すら、ない。


『ラガンにしか見えないものが、あるのです』


 最後に、そんな風に聞こえた気がする。


『ラガンにしか見えないもの……』

 私の中で、確かに何かが起こっていた。

 湧き水のように、涙が溢れてくる。


 眼鏡が……、雲って仕方がなかった。


 私は、眼鏡を外した。


 その時世界が……大阪が、視界に写るもの全てが、解体された。