「きゃああああ」

 みどりの叫び声が車内に響く。

「うあああああ」

 信太郎もまた、我を失った。


 青白い男の子の顔が、フロントガラスに映っている。

 始めは小さかった顔が、段々、大きく、大きくなってゆく。

 信太郎とみどりを乗せた車は、側線を越え、渓谷の暗闇へ落ちていった。


 二人の悲鳴と共に……。



 梶原は、既にキャンプ場に到着していた。

「中古のぼろいワゴンなんだけど、来ていないか?」
 梶原は管理の職員に聞いていた。

「おかしいなぁ。山に入ってから一本道なのに、どこで追い抜いたんだろう」

 梶原は溜め息をついて、一人で考え込む。


「孝夫さん、あれ」

 ふいに、咲子が暗闇を指差した。

 咲子が指差す方向には、玉のような小さな炎が二つ、寄り添うように、ふらふらと漂っていた。