「なぁ、みどり。

 さっきから梶原の車なんだけど……」

 信太郎は、妻のみどりを車に乗せ、同僚の梶原夫妻の乗る白いライトバンの後を、太陽が落ちる中、黙々と走っている。

 散々、日程を調整して、ようやく実現したキャンプ。

 居酒屋で梶原とキャンプに行こうと決めてから、仕事の都合とか、冠婚葬祭やら、結局実現せずに一年も経ってしまった。

 二人とも結婚をしていて、子供はまだいない。

 信太郎は、梶原の同じ様な生活に、共感を抱いていた。


 車二台が仲良く連なって、目的地の山あいの渓谷に向かっている。そこには、去年の夏に新設された、キャンプ場があった。

「信ちゃん、梶原さんの車って、かなり古そうね」

「ああ、そうだな。最近買った中古車らしいよ」

「なんか、汚い」

「安かったらしいよ。本人の前で言うなよ」

 梶原の車は、白いというより、黄ばんでいた。それに、ガタガタと揺れている。


「それで、梶原さんの車が、どうかしたの?」

「ああ、いや、なんか車の後部がこう、チラチラしてな」

「ちらちら」

「ほら、今見えた」

「えっ、どこ」

「ほらっ……えっ?」

「えっ!」

 信太郎もみどりも、絶句した。

 一瞬の出来事であったのだが、おかっぱ頭の、青白い少年の顔が覗いたのだ。

 目尻は鋭く、しかしそれでいて無表情だった。

「見……た?」

「ええ」

 何で子供が梶原の車の後部に乗っているんだ?

「あっ、また」

 みどりが声を上げる。

「どこの子だ? 梶原には子供はいないぞ」

「咲子さんに、電話してみるね」

 みどりは自分の携帯電話を取り出した。

 咲子は梶原の妻である。
 いつも大人しくて、会話するときに、信太郎が困ってしまうほどだ。

 しかし、みどりとは意外にも、波長が合うようだった。

 ワンタッチで、みどりは咲子に、電話を掛けた。