「本当に変な子…ねぇ、君の名前、聞きたいな。」

暫くして泣き止んだ彼女はそう言うと、俺に初めて笑顔を見せた。
常に泣いている事が多い彼女の笑顔は、やはりどこか切なげであったが、両端に出来る靨が可愛らしい。

「俺は芝健一郎、お姉さんは?」
「私は優(ヤサ)、好きに呼んでくれていいよ…ケン。」

彼女ー優さんにそう呼ばれると、何だか特別なものの様に聞こえる渾名が、少しくすぐったい。
そして、優さんとの距離が、ぐっと近付いた事に、俺は喜びで胸が苦しくなるような感覚さえ覚えた。