特殊な魔法―――幻術による魔法で、無意識にその本に対する嫌悪感を煽る魔法。そして、触れたとしても他の本と同じ内容を完全に模倣し、ただの本として使用できる魔法。


 それは、明らかにその本に元々書かれている内容が誰にも読めないようにという配慮が為されていたということで。


「………誰かが、意図的に何かを仕組んでいることは、間違いない」


 だが、――――誰が、どういう理由で、そんなことを?


 疑問は晴れない。だからといって、自分の存在を極力秘めている自分にとっては、それを調べるために動こうという決意が、まだない。


「………嫌な、予感がする」


 自らの素性を聴かず、ただこちらの意思だけを汲み取って、食事や寝床を無償で提供してくれる、可愛らしい少女。


 無垢で、温厚で、けれど人一倍努力家で。―――それでいて、少しだけ臆病で。


 そんな彼女が手に入れた魔法使いとしての素質は、自分が導き出したひとつの推論が弾き出した結果ではある。


 それでも、あそこまで重厚に守られた一冊の本に、どのような思惑があったのか、まだ見えない。