「………アルジス」


 呼び慣れてきた名を、口の中で転がす。穏やかな笑みがその都度向けられて、彼の唇が、自分の名を呼ぶために動くのを、目蓋の裏で見た。


 ただ、名を呼ぶ。名を呼ばれる。―――たった、それだけ。


 なのに、喜んでいる自分がいる。傍にいるだけで、笑顔を見せてくれるだけで、心のどこかが熱を持ち始める自分がいる。


 正体が分かりそうになるたびに、思考を打ち切ろうとする。けれど、霧がかかったような心の部分を、晴らしてすっきりしてしまおうとする自分が再び顔を出して、思考を回転させ始める。


 結局堂々巡りを繰り返し、サリアは寝返りを打った。上手く言葉に出来ない気持ちが、アルジスと出会って以来少しずつ増えてきている。


 その変化を、喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか―――気持ちを解き明かせない今の状態では、判断出来そうになかった。







 星々が隠れてしまった陽の力を借りて自らを輝かせる夜空を見つめながら。


 サリアはだんだんと薄れていく思考の中、優しく眠りを促す声を聞いた気がした―――…。