「あなたが何者かなんて知りません。けど、これだけは言えます」


 先ほどまで懐剣を首筋に当てられて震えていた少女が、猫を抱きしめてこちらを睨む少女と同一人物なのかと、疑いたくもなった。


「あなたは、人じゃない!」


 華奢な身体を怒りに震わせて、掠れた声で叫ぶその姿は、どこか気高さを感じさせた。


「刃物を手にして、傷つけて! 躊躇う素振りも、後悔する素振りもしない!」


 どこまでも広い空間に、怒気を孕んだ言葉が溶けていく。


「あなたは、人なんかじゃない。人だったら、傷ついたものを見て、泣いたり、労ったりするものだもの!」


「……人じゃ、ない……」


 そう言われて、少年は乾いた笑いを浮かべた。まさかそんな反応が返ってくるとは思っていなかったのか、少女が瞠目する。


「………そうだろうな。俺はとうに、人じゃないのかも、しれない…」


 素直に少女の言葉を受け入れた少年は、ふと気が遠くなっているのに気づく。


 腹部に手を当て、あぁ、とつぶやいた。


「………すまなかった、傷つけて」


 手のひらに伝わるぬめりとした感触が、だんだんと自分の血の気を奪っていくのを感じながらも、これだけは言わなければとかすむ目の前にいるだろう少女に微笑みかける。


「………本当に、すま、な――――」


 遠くなった意識の中で、慌てた声が聞こえた――――。