一筋、光が迸った。

震える少女の頬を掠めたそれは、柔らかな少女の肌に鮮血の跡を残して消え去る。

少女は訳も分からず逃げ出そうとするがーーー叶わず、立ちはだかった彼女の姿を認めて立ち尽くす。終わりだ。少女の脳裡に赤信号が明滅した。


「…あまり手をかけさせないで頂戴」


長く、ぞっとするほど黒く艶やかな髪を払い、彼女は可愛らしい声で告げた。末期の病にかかった患者が死刑宣告を医者から受けてしまったときのように、少女はその場に崩れる。

何が。何が。何が。

何が私の身に起こっているのだ?


「早く渡して頂戴?貴女に少しでも眠っている神の力《アガペー》が、どうしても私には必要なの」


彼女は首を傾げて少女に嘯く。


「あが……ぺー?」


聞き慣れない言葉を反芻する。彼女は艶かしく微笑んで、そっと聖母のような声で囁いた。


「そう。私に渡してくれないかしら。……《絶望の使い手》、古賀いのり」


どうして、私の名前を知ってるの?

その問いは、口にすることは叶わなかった。