「もう! どうしてママも麗太君も起こしてくれないの!?」
 春休みの反動があったせいか、目覚ましのベルを二、三度も逃すとは不覚だった。
 今日が五年生の一学期初登校だというのに。
新しく買ってもらった春物の洋服。
 いつもは殆どママが選んでくれている。
 私に可愛い服を着せて喜んでは、また別の物を着せる。
 ママはしょっちゅう、私を使ってファッションショーをしているのだ。
 近頃は麗太君も、その被害に遭っている。

 廊下に出ると、麗太君も部屋から出て来ていた。
「おはよう。今、起きたの?」
 麗太君は頷く。
 二人でリビングへ行くと、隣のママの部屋から悲鳴が聞こえた。
 何事かと思った次の瞬間、ママはリビングへ入り込むなり私達に言う。
「二人とも、このままじゃ遅刻よ! 急いで!」
 ママに急かされ、身支度を整える。
 朝ご飯は抜きで良いと思っていたのだが
「朝ご飯だけは食べて行きなさいよ!」
 というママの言葉には逆らえず、黙々とトーストを齧る。
「優子、髪梳かしてあげる」
「え? いいよ。自分で出来るから」
「時間がないんだから私に任せて! それに、優子は髪が長いんだから、余計に時間が掛かるでしょ」
 麗太君の前でママに髪を梳かされていると思うと、少しだけ恥ずかしかった。

 学校へ行く前、ママは必ず玄関先まで着いて来る。
「二人とも、忘れ物はない?」
「大丈夫だよ」
 隣で麗太君も頷く。
「じゃあ、頑張ってね。二人とも仲良くね。いつも言ってるけど、知らない人に声掛けられても付いて行っちゃ駄目よ。えっと、あとは……」
 このまま言われると限がなさそうだ。
「ママ。時間、時間」
「ああ、そうね。よし! それじゃあ、行ってらっしゃい!」
 元気良く言うままに、私も笑顔で言う。
「行ってきます」
 隣で麗太君も、メモ用紙を見せる。
『行ってきます』
 玄関の扉を開けると、朝の眩しい光が私達を照らし出す。
 春の日差しや風は、私達を祝福しているかの様に暖かく心地よく感じられた。