重い足取りで歩く私と麗太君に、ママはこっそりと言う。
「二人とも、収骨が終わるまで外にいなさい」
「いいの?」
「あなた達は、まだ小学五年生じゃない。収骨をする所なんて、残酷すぎて見せたくないの。特に、麗太君には……」
麗太君は何か言いたげな顔をして、メモ用紙を出す。
一度、横目で私を見てメモ用紙をしまい、ママに一礼した。
きっと、私の事を考えてくれたのだろう。
火葬場に来てから、収骨の事ばかりを考えてしまって、ずっと気分が優れなかったから。
「それじゃあ、待合室は閉められちゃったから、あなた達は外で待ってなさい」
 ママは私達の頭を撫で「じゃあね」とだけ言って、収骨に向かった。

 外に出ると、春の風が優しく頬を撫でた。
 駐車場の隣には芝生がある。
「麗太君、あそこ行こう」
 麗太君を連れて芝生の上に立った。
 気持ちの良い風、草の匂い、先程までの嫌な気分が嘘の様だ。
 しかし、私の隣にいる麗太君はずっと俯いている。
 折角、重苦しい雰囲気を抜けられたんだ。
 何か明るい言葉を掛けなくちゃ……。
「気持ち良いね。風とか草の匂いとか。家の近くに大きな公園があるんだけど、今度、ママと行こうよ。とっても気持ちが良いの。緑がいっぱいで、噴水とかがあって」
 必死に言葉を投げかける私を余所に、麗太君は火葬場の煙突の方を見た。
 さっきまでは、あそこから遺体を焼いた煙が上がっていたのだろう。
 麗太君は私の方へ向き直り、メモ用紙に何かを書いて、それを見せた。
『母さんを殺したのは僕』


 良く晴れた日の昼時。
 麗太君は、家の庭でサッカーボールで遊んでいた。
 麗太君のママは花に水をあげながら、その光景を見ていたという。
 誤ってボールを道路に出してしまった麗太君は、慌ててそれを追い掛けた。
 自身では気付かなかったのだそうだ。
 そこにトラックが走って来ていた事を。
 麗太君のママは、ボールを持って道路に立っている彼を突き飛ばし、自分が身代りになった。