大切にケースへ仕舞われたハサミを出すと、刃を入れて行く。

あまりに滑らかな手捌きに、私は見惚れた。



「先生より上手いね」



隣に現れた中町に厭味を言う。



「美容師は切るだけが仕事ではありませーん」



けど、上手い具合に流された。

さりげなく近付いて来てる気がして、私は歩斗の方へ逃げた。

歩斗はため息を吐きながら、中町を一睨みした。



「お客さんはもう少し短くても似合うかと思います。お詫びと言っては安いですが、ウェーブを掛けてみませんか?」



「貴方が仰るなら、掛けようかしら」



私が知らない歩斗を見た。

…こんな顔をするんだ。