好きと言えない。―悪魔と恋―【完】

冷たい私の右手を握る歩斗。

私は歩斗の香りを堪能するのに最適な耳の裏に鼻を寄せる。

クンクンと嗅げば、微かに残る香水。

シャンプーの匂いが混じり、甘い香りが沸き立つ。

私しか知らない、取って置きのポイント。



「そういや、お前。アザミさんに何か言った?」



「色々と言ってて、心当たりがない」



…あのチクりデブ。

何かを言った?



「声に出てる;;」



「失礼しました…」



このお口、いつまで経っても危ないんだから。

私は歩斗を見ながら、口に手を当て、ファスナーを閉めるような仕草をした。