魔神ベルゼビュートが封印されているといわれる神殿。
神殿は古く、所々にヒビが入りツタが高くまで巻き付いている。
しかし、それほど危険な雰囲気はなく、神々しさまで感じる。
神殿の周囲には、木々や花が美しく咲き誇る。
湧き水が出ている小川では、動物達が体を休める。

そこに横たわる少年が一人。
黒い髪に、黒い服。
何かが近付く気配を感じ、閉じられた瞼が開くと、漆黒の瞳が現れる。



「マーコート!」



空を見ながら仰向けに寝転がっていた、その少年を覗き込むように、美しい顔が現れた。



「……セイラ」



マコトは、さして驚きもせず体を起こし、無言のまま神殿の方を見る。



「ねぇ、入ってみない?」



それに気付いたセイラが提案してきた。



「……駄目だ」

「言うと思った。いいもん、一人で行くから」



セイラは立ち上がって、神殿の方へ歩いていった。
マコトはさすがに慌てた様子で、セイラの後を追った。



「戻るぞ。中はモンスターだらけだ」



引き止めるために、セイラの細い腕を掴む。



「私を甘く見ないでよ。魔法だけじゃなくて、体術だって得意なんだから」

「そういう問題じゃないだろ……」



掴んでいた腕は振り払われ、言っても聞かないのを嫌というほど知っているマコトは、溜め息をついた。
せめて、自分が武器を持ってきていれば、彼女を守れるのだが……。



「来ないなら、私一人で行くからね」

「わかった」



セイラのその一言で、マコトは諦め、神殿の中についていった。