夜の森。
モンスターに追われている人影。
背中に大剣を背負っているが、それを使う気配はない。
手には、細身の剣を握ってはいるが、どこかぎこちない。
ずいぶん走っているようで、息は絶え絶えだ。



「あっ」



暗闇で見えなかった木の根に躓き、転んでしまう。
その木を背に、座ったままモンスターの方へ向き直る。



「アカン……。やっぱ、剣なんか無理や」



転んだときに細身の剣を離してしまい、3メートルほど遠くへ飛んでいってしまった。
ジリジリとにじりよってくるモンスターに、身を縮める。
月明かりに照らされた人影は、20代の青年だった。



「もうアカン。僕、死ぬ」

「死なんわ、ボケーー!!」



青年が諦めかけたとき、木の上から、小さな塊がモンスター目掛けて落ちてきた。
それがモンスターの頭にぶつかり、モンスターがよろめく。



「ミノリ! お前が死んだら、俺はどうなんねん!!」



クルクルと回って着地したその姿は、フワフワの柔らかな毛に包まれた体に、大きく太い尻尾に、犬のようなピンと立った耳を持つ小動物だった。



「リョク……。そやかて、お前のせいで魔力使い果たしたんやないか!!」



ミノリと呼ばれた青年は、その小動物に怒鳴る。
危機感の無い喧嘩が始まる。



「ガァァアァーーー!!」



忘れ去られたモンスターが怒声をあげ、リョクの尻尾を掴みあげる。



「リョク!!」

「……食われる?」