夜明け前。
村人が寝静まっている頃。
旅の支度を整えたマコトが旅立とうとしていた。
物音を立てないよう、静かに歩く。
マコトに肉親はおらず、村外れに一人で暮らしていたため、村を出ても困る者がいないのが、唯一の救いだった。



「マーコート!」



村を出ようとしたとき、後ろから声をかけられた。
それは、聞き間違うはずのない、セイラの声。



「……ついてくるな」



振り向きもせず、冷たく言い放つ。



「でも、私、これから神子の修行にでるの。お婆様もやった修行だし、そろそろ私もって話しになってたの。お婆様の時は同行してくれた方がいたらしいけど、私は、一人で旅に出ないといけないの。同行を頼むはずだった人が、村を追い出されてしまったから」



セイラはマコトの正面に回り、マコトの顔を覗き込む。



「この意味、わかるよね? これは、村全体の意思なの」



ニッコリと微笑んだセイラの顔は、太陽のように眩しかった。



「……わかった」



マコトは何とか平静を装っていたが、声が震えていた。
村の……セイラの優しさが胸に染みた。