駅から一時間程歩き、実家に着いた。腕の時計をちらりと確認をしてから戸を引く。


俺はこの家に歓迎される様な事は何一つしていない。今の学校に入るまでに二年を費やし、在籍する事五年。三人兄弟の二番目として生きてきたが兄や妹には疎まれ、父親と顔を合わせれば説教で始まり拳で終わる。


今でもふと、あの時の鉄を含んだ血の味や頬を伝う温かさが鮮明に蘇える。



気付けば盆も正月も帰らずにいた。今となってはどうでも良い事だが、その結果母親と最後に会ったのがいつかも分からなくなっていた。


玄関に入り、靴を脱ぎ廊下をギシギシと歩いても家の中は何も音が無い。誰も居る気配が無い。空気が静止したままでそこに在る。


その事が、ここにはもう母親が居ない事を確信へと導く。