だけど俯いたままピクリとも反応しない彼。
仕方ない、シャッターさえ下ろしてしまえば客も来ないし、彼だって帰る気になるだろう。
急いでシャッターを下ろしたはいいが、暗くなった店内に俯いたままの彼は微動だにしなかった。
「お客様…?」
彼の肩に手をおくと、その手をそっと包むように彼の手が触れたから逆に私が驚きのあまり動けなくなってしまった。
「君は…君はツライ恋をした事がある?」
「えっ…?」
彼の呟いた声がやけに震えていて
そこでようやく、私は彼に何が起こったのか悟ったんだ。
ちらっと盗み見た彼の左手の薬指にはいつも光ってる指輪がなく、その代わりに彼女と過ごした思い出の跡だけ名残惜しむように残っていた。


