「こんな予定でローンをくんだわけじゃないのに…」
四階建てのエレベーターの無いマンションの三階。
千歌が赤ちゃんだった頃、片手で千歌を抱いて
もう片手でベビーカーを抱えて
毎日、しんどい思いで買い物に出かけた。
だけどまだあの頃の大翔は頑張る私を褒めてくれたっけ…。
静かに玄関のドアを開けると既に大翔の靴が並んでいた。
「大翔?帰ってるの?
体調は?ただの風邪だったぁ?」
少し大きな声をあげながらリビングに向かうとベランダに大翔の後ろ姿を見つけた。
「帰って来たのに気付いてもいないや…」
ふて腐れながら急ぎ足でベランダの窓に手をかける。
「大翔ってば」
声をかけた瞬間だった。
大翔が彼の腰まであるベランダの柵を飛び越えて
一瞬で
私の前から姿を消した。


