目印にしている公衆電話を探し当てると、左手路地へ入る。

そのすぐ傍にあるビル四階が、職場である株式会社『如月』事務所。

会社へ入ると真っ直ぐ進み、エレベーターのボタンを押して、暫く待つ。

独特の機会音を聞きながら、ボーッと待っていると、後ろから声を掛けられた。

「高橋さん。」
「……え?」

聞き覚えのある声。

そう、遠い昔に……なんて事がある訳ない。

ただ、この子の声を聞くと、僕はいつもドキリとしてしまう。

振り向かず、ああと思い出したように声を上げ、挨拶で返事した。

「おはよう、室井さん。」
「おはようございます。また会っちゃいましたね。」

と、多分笑顔で、温もりの籠った挨拶をしてくれたこの子が、会社の仲間、室井紗智さん。

年下なのにとても面倒見が良く、手際の悪い僕のサポートもしてくれている。

「また会った」というのは、何故か出勤時間が重なり、このエレベーター前で一緒になる事が多いからだ。