固いコンクリートの地面を叩く音、恐らくはハイヒールの踵部分だと思う。

その音は、雑踏の中に紛れて僕の耳に狙い済ましたかのように入って来た。

後方から僕の背に段々と近付き、もう手を伸ばせば届く距離にその人物は来ている。

(知り合い……?)

にしては、大人の女性を連想させる歩み方。

頭の中のアドレス帳を捲っても、目星が付かない。

だが赤の他人だとしたら、何故こんなにも気になっているのだろう。

音を聞き取っているという事は、自分自身無意識の内に注意深く聞き耳を立てているのではないか。

女性と思われるその人は、僕の横を通り過ぎると前へ行く。

前へ、前へ。

歩数からいって、もう白線ではないか。

しかし、さらに前へ行く女性。

(……まさか……?)

ゾクリと嫌な予感が背中を走る。

そこへ通過列車を伝える放送が流れた。

"……危険ですので、白線の内側へお下がり下さい"

減速せずに走る回送列車は、警笛を鳴らしながらホームに進入してくる。





プァアン。





「危ない!!」

反射的に、そう叫んだ。