「ほら見なさいブリュン。

人と言うのは正しい道を示してあげれば、どんな場所からであろうと改心することができるものなのですよ。

さぁ盗人さん、さっそく盗んだ宝石を渡して頂けますよね?」

心なしか達成感に満ちた、明るい声。

ブリュンはうんともすんとも応えない。

「は、はい。

じゃ、じゃあ、あっちの茂みに隠しているので取ってきますね」

「はい。お待ちしています」

男は向こうの茂みへと消えていく。

女性は善行への達成感からか鼻歌を歌っている。




お気に入りの曲を鼻歌で一通り歌い終わるが、男はまだ帰ってこない。

男が宝石を取りに行くフリをして逃亡したことに女性はまだ気付いていないようだ。

「…………テレサ」

「なぁに?ブリュンヒルデ」

「その、気付いていると思うが……さっきの盗人は逃げたんだぞ?」

テレサと呼ばれた女性の笑顔が一瞬にして凍り付く。

「だ、だってさっき誓うって言ってらっしゃったし……」

ブリュンは小さくため息を吐く。

「テレサ、君の大好きな教科書に"誓いは果たしてこそ誓いとなる"と書き足しておくことを勧めるよ」