「お父さん、ただいま」
「おう。遅かったな、おかえり」
私にはお母さんがいない。
私がまだ小さい頃に
ガンで亡くなったらしい。
だから私は
お母さんを写真でしか
見たことがない。
でも…
小さい頃から
お母さんはどこかにいると信じていて
未だに、そう思い続けている。
「夕飯、急いで作るね」
「悪いな。頼んだ」
お父さんは
いつもニコニコ笑っている。
でも少し大人になった私には
お父さんが辛いってことは
痛いくらいわかっている。
だから私はお父さんに
できる限り、尽くしてあげたいと
思っている。
「はい。ララ特製のカレー」
「おっ!やった」
「お父さん…仕事無理しないでね?」
「なんだよ急にー。」
「いやっ、なんでもない」
この時
嫌な予感が胸をよぎった。
お父さんの手が…
大きく震えていた。
