伊良内の人はにこりと人の良さそうな笑みを見せた。
「では、改めまして…。伊良内拓真、と申します」
「拓真……?」
どこかで聞いたことのある名前に、自然と眉間にシワが寄った。
「はい」
「……あ、」
「思い出して頂けましたか?」
思い出した。女の子みたいな格好して、ものすごくかわいい男の子だ。
「えっ、本当に…?」
「はい」
にこりと見せる笑顔はあの時と変わらず、でも昔にはない大人っぽさがあった。
「あ、お久しぶりです…」
「遅いよ、気付くの」
「ご、ごめん。あまりにも変わってたから…」
「まあ、無理もないよね」
クスクスと笑う拓真。やっぱり、あどけなさが残る。
「久しぶりの再会だ。話してきたらどうだ?拓真」
「えっ…」
「時間はまだある。話したい事、たくさんあるだろう?“式”までに戻ってこればいい」
「…わかった。ありがと父さん」
拓真はあたしに手を差し出して、にこっと笑った。
あたしはその手に戸惑い、父さんを見ればニコニコと笑っているではないか。
行ってこいってか。
「お嬢様、これから少しお話しませんか?」
「…喜んでお相手願いますわ」
あたしが手を取れば、大ホールを抜けてこじんまりとした場所に来た。
「相変わらず、お綺麗で」
「ドーモ」
「その態度も変わらないね」
嫌味なのか、ニコニコと笑いながらそう言った。
「そうかしら」
「そうだよ。…懐かしいね。杏菜と初めて会った時もここだった」
拓真は目を細めて遠くを見詰めた。

