ことここにきて、相手が持つ手札の恐怖に気づく。
『マスター!』
「分かったわ」
長年連れ添った相棒同士、多くの言葉はいらなかった。
【ムーサ】
宙に魔方陣が浮き上がる。現れたのは白布の乙女。
両手には分厚い本を持ち、ひらひらと浮いている。
「“歌に愛されし遊女”(ムーサ)、守りを――!」
『承知いたしました』
本が開かれ、パラパラと自動でページがめくられた。
あるところで止まり、すうとムーサは息を吸う。
吐いた瞬間には、この世界では理解できない言語の旋律が流れた。
美しくも儚げだ。ディーヴァ(歌姫)の称号でも与えたいほど、奇跡の旋律にも近い。
実際にその歌はある奇跡(魔術)を発動していた。


