飛べない黒猫

蓮と真央がソファーに座り、青田の横に洋子が座った。



「事情を説明しなければいけないね。
まず、真央…すまない。
なぜ真央が言葉を失ったのかを彼等に話した。
お母さんの事件の事、真央の恐怖との葛藤、不登校の事…。
それと、子供の頃の写真と、この前写したクロオを抱いている写真、真央が初めて作ったステンドグラスの写真も渡した。
これじゃ、まるで、見世物だ。
ゴメンね…真央。」



青田の目が、悲しそうに陰った。

しかし真央は動揺する様子もなく、落ち着いて青田の言葉に首を振る。
そして、自分は平気だからと言うように、少し微笑んだ。



「あの、僕と母の為だったんですよね?
…すみません。」



蓮が青田に頭を下げる。



「いいえ違います!
君たちのせいなんかじゃない。
どこにでもいるんですよ、ああいう人間は…」



青田は長いため息をついて、手にした封筒を見る。



「誰かが故意に、私たち家族を陥れたいと動いているようなんです。
蓮くん、いいですか?
決して卑屈になったり、自暴自棄になってはいけません。
それこそ、奴らの思うツボです。」


青田はしっかりと蓮の目を見て言い、洋子へも視線を向けた。



「君もだ…大丈夫だね?」



優しい青田の声に青ざめた顔は少し和らぎ、洋子はコクリとうなずいてみせた。

青田は封筒から書類を取り出してテーブルに並べる。


「これは、26年前の新聞です。
26年前に横浜港の在日アメリカ陸軍の兵士が強姦事件で逮捕されました。
そのアメリカ兵は5件の事件を起こしている常習者だったのです。
その5件の内の、1件の被害者が…洋子だった。」