郊外の静かな住宅街。
街灯がつき始めて、雨に濡れた路面は光に反射し辺りを明るく照らした。

少女は2階の窓から、高い塀の向こう側の大通りに続く道を眺めている。
この家に来客があるのは珍しい事だった。


少女はこの家で、大手建設設計会社社長である父親、家政婦兼少女の家庭教師をしている初老の女性、それと1ぴきの猫と暮らしていた。

母親は、少女が小学4年の時に亡くなっている。



少女は母親を亡くしてから、言葉を発しなくなっていた。


医者は多感な時期に母親を亡くし、精神的なショックが大きかった為のストレスであろうと診断した。
父親も少女の為ならと比較的静かで穏やかなこの地区に移り住み、彼女の回復を願った。


しかし、少女の状況は一向に良くなる事も無く、もう6年が経っていた。





「真央、ママが亡くなって6年が経ったね。
真央は辛い思いをいっぱいした。
それでも今まで、なんとか2人で頑張ってきたね。

パパも、いろいろ辛い時があったんだ。
そんな時に、パパを影ながら支えてくれた人がいた。

真央にも、その人に会って欲しいと思ってね…。
これから、パパのパートナーになって欲しい人なんだよ。」



父親の申し出は突然だった。
命日のお墓参りの帰り道で、彼は穏やかに話し始めた。


少女は立ち止まり、驚いた表情で父親を見る。

父親は、視線をそらすことなく少女を見つめ返す。


「………。」


少女は黒目がちな大きな瞳を伏せ、しばらく考え込む。


「……真央…?」


父親の声に、ゆっくり顔をあげて少女はコクリと頷いた。


「…ありがとう、真央は優しい子だ。」


にっこりと微笑む父親の顔を、少女はじっと見つめていた。
胸がチクンと痛んだ。