飛べない黒猫

この子の目には何が映っているのだろう。
何を感じているのだろう。



真央と同じ年頃の時、蓮には怒りの感情しかなかった。


くだらない事を騒ぎ立てて喜ぶクラスメイト。
心ない中傷。

自分の身体に流れる出生を認めない父親の血も、醜い過去の傷跡も、動かない奇形の薬指と小指も…

何もかもが腹ただしく無意味に思えた。




早く大人になって自由になりたかった。

母親には感謝していたし、これ以上苦労をかけたくない。
自立して生きていく手段を見つけるために、大学に通った。

自分がやるべき事を見つけてからは、心が楽になり、猛烈に学び、経験を積んだ。



ビジネスの社会は分かりやすく都合が良かった。


自分が有利な立場にいれば、周りはけっして攻撃してこない。
実力のみが評価され、偏見は影をひそめる。

逆に、無能な弱者は叩かれるが。


仕事が評価されると、企業は、能力を分けて欲しいと頭を下げて金を持ってくる。
こんな、居心地の良い環境はない。

やっと、自分の居場所を見つけることが出来たのだ。



蓮は、不幸な真央の生い立ちに自分を重ねていた。
だから、彼女の事が気になるのだ。

自分の感情を表に出せない彼女を心配してしまう。


周りの大人は気づかない。
真央は良い子だと安心している。

逆なんだ。
蓮は分かっていた。


すべての感情を胸にしまい込むストレスに、心が悲鳴をあげているのに。
真央本人も気づいていない。

人は愚痴でも喧嘩でも、言葉を発して感情をあらわにすることで、自分の気持ちを理解し整理出来るのだ。


真央は自分の感情を吐き出すのを恐れているのだ、無意識に。
心の奥底の無意識の意識…潜在意識が、そうさせている。

それは彼女を守るのと同時に…壊してしまうのに。