飛べない黒猫

「あぁ、彼女ね。
大人の顔した子供だから…。
しかも、かなり自己中心的。
一般的な大人の分別とか通用しないんで、気をつけた方がいい。」


眉間にシワを寄せて左眉を高々と上げた蓮は、真央にウインクする。


「まぁ、逆に捉えると…単純・明快。
ズルくないし悪気ないから、きっと、すぐ馴れるよ。
楽しく暮らしていこうね。
困った事があったら、俺に相談して。」


顔を近づけて、内緒話でもするように小さな声でささやく。


「いいかい?俺達は味方同士だ、敵じゃない…助けあっていこうぜ。」


優しい言葉にホッとした真央は、蓮の目を見て微笑んだ。



「片付けは終わった?
こっちに来て、休憩しない?」


洋子が顔を出した。


「あらっ?真央ちゃん!
なーんだ、そこに居たのね。
美味しそうなケーキなのよ、どれにしようか迷っちゃう…
さっ、早く早く!」


そう言い残すと、パタパタとスリッパの音を響かせて、洋子は居間に急いで戻った。
廊下に静寂が戻る…

蓮と真央は顔を見合わせた。


「…なっ?子供だろ。
今どき子供でも、ケーキ選ぶのにテンション上げないから。」


蓮のあきれ顔が可笑しくて、真央はクスクスと笑う。


「じゃ、俺達も行こうか。
モタモタしてると、また呼びに来るぜ。」




2人で居間に行くと、珈琲のいい香りが広がっていた。

青田は、ゆっくりと珈琲を啜り真央を見て微笑んだ。
真央の頬には赤味がさし、瞳には輝きがあった。

このところ、真央の調子は安定している。

環境の変化で、真央の状態を心配していた青田だったが、洋子や蓮に心を開き、落ち着いて接している愛娘の姿に安堵していた。