「大丈夫だよ…」

蓮は袖口を、ぐいっと引っ張り手を隠した。

夏場でも傷跡と手を隠すために長袖を着ていた。
わざと大きなサイズのを。


蓮の視線に気付いたその子はハッとし、笑顔を取り繕った。

「ごめんねっ、…それじゃ!」

引きつった笑顔で後退りした。
チラッとまた蓮の手を見て、クルリと背を向け走り去った。




その子とは、それ以降、視線が合うことは無かった。
そんなものだ。


シャワーを浴びて髭を剃り鏡の前に立つ。
冴えない顔の俺がいる。


首の付け根から肩に大きなケロイド。
そのケロイドは腕から手の甲に続く。

人差し指と小指は、半分以下に縮れた醜い固まりでしかない。


1歳になったばかりの頃、預けられていた保育所での事故。
ヤカンの熱湯が倒れ、数人の園児が火傷を負った。

蓮が一番ひどかった。
2本の指は成長を止め機能しない。


こんな外見だ。
異様なのは否定出来ない。

蓮は、人との関わりを避けるようになっていた。




仕立ての良いスーツ。
仕事柄か母親の目利きのセンスは抜群だ。

「蓮、会って欲しい人がいるの。
おかあさん、その人と結婚したいなって思って。」

意外だった。

美人だとは思う。
だけど、恋とか愛とか家庭とか…
彼女は仕事ばかりで、そーゆーのに無縁だと思っていたし、興味も無いと思っていた。



ネクタイを締め髪を整える。
上出来だろ…鏡につぶやいて、蓮は玄関に向かった。