飛べない黒猫

ベッドの真ん中に丸くなり、クロオはぐっすりと眠りこんでいる。
1日の大半を寝て過ごす。

猫も、他の動物と同様に夜行性だというけれど、夜中、活発に走り回っているいる姿なんて見たことが無かった。

大抵は、真央がベットに潜り込む前に、もうすでに寝ていたし、朝は、一緒に起きている。
寒い朝などは、布団の中から引っ張りだすと、ニャアーと不機嫌に鳴いて嫌だと主張する。


気に入らないゴハンは食べない。
呼んでも、わざと知らんぷりする。
犬のように規則正しく生活しない
もちろん、運動しない。
きっと、従順でもない。

…よその猫よりも、わがままで怠惰な子だ。



ドアを開ける音がしても起きる気配がない。

真央はくったりと脱力して起きないクロオを無理矢理抱き上げて、静かになった廊下を降りた。


居間で笑い声がした。
和野が田舎へ帰ってから、食事仕度や買い物など洋子が頻繁に来ていた。

今日から一緒に暮らすことになるから、これからは当たり前の光景になる。
少しの違和感は、しばらくすれば無くなるのだろう…


急に目の前のドアが開く。
客間から蓮が出てきて、危うくぶつかりそうになった。


「おっと!ごめん。
あっ、やっと出てきたな。
今日からお世話になります、仲良くやっていこうね。」


クロオをぎゅっと抱きしめ、真央は大きくうなづいた。

父親から、この部屋に蓮が来ると聞いていた。
開けられたドアから、数台のパソコンやチカチカとランプが点灯している複数の機器が見えた。


「引越楽々パックってゆーの?
あっと言う間に、全部片付けてくれちゃうの。
おかげで手間無し…ん?興味あり?」


蓮は、興味深げに部屋の中を見る真央を招き入れる。


「パソコンのプログラムを作る仕事をしているんだよ。
…パソコン使える?」


真央は右手の親指と人差し指を近づけて「少し」の仕草をした。

カウンターテーブルに液晶大画面のデスクトップパソコンが2台。
ブーンという低いモーター音と、大きなハードディスクからカチッカチッと音がしていた。


「ゴツイでしょ。
彼らは、俺の信頼する相棒たち。」