飛べない黒猫

冷たい風が玄関から廊下を抜けて居間へ入り込んできた。

マフラーを巻いた美香が、玄関で真央を待っている。




蓮は、イチゴ模様のお弁当バッグのチャックを開けた。


「これ、お弁当ね…
真央の好きな、甘い卵焼きと赤ウインナー入れてあるから、残さず食べてくるんだよ。
それと、バナナ。
皮はゴミ箱に捨てること。
おやつのチョコレート入れておくから…
お友だちと仲良く食べてね。
いいかい?ケンカしないで仲良くね!
ちゃんと、先生の言うこと聞いて、しっかり勉強しておいで。」


チャックを閉めて、バックを真央に手渡す。


「道路では車に気をつけて!
ふざけて歩いてたら危ないからね。
暗くなる前に、帰ってくるんだよ。」


蓮はにっこり微笑んだ。





「あはは、小学生じゃないから…もうっ。
…ありがとう、蓮」


大きな黒い瞳が蓮を見つめる。


真新しい制服を着る。
胸にはムーンストーン、ポケットには猫のストラップが付いた携帯電話。


そして…登校初日のサプライズ。
蓮が作ったお弁当。

嬉しそうに、真央はギュッとバッグを抱えた。


「いってきます、暗くなる前に帰るからっ!」


真央は、満面の笑みを浮かべ玄関で待つ美香のもとへ走る。


「いってらっしゃい。」


見送る蓮の足元にクロオが擦り寄る。
慌ただしく立ち去る真央の背中を見送るように、ドアに向かってニャアと鳴いた。


【おわり】