…ウソだろ

人は呆れると絶句すると言われているが、今、まさに、蓮は身をもって体験していた。


光沢のあるワイン色の生地のYシャツ。
銀と白の細いストライプが入った濃紺のネクタイ。
細身のブラックスーツ。
先の尖ったエナメルの黒靴。


「…とうとう、ホストクラブにでも売られるのか、俺」


胸のポケットに深紅の薔薇なんかさしてみろ。
まるでジゴロだ。



「何言ってるのよ、ホストが着るようなチャラいのと一緒にしないでよ!
これ、イタリア製のブランドなんだからね。
うふふ、奮発しちゃった」


洋子は嬉しそうにニッコリ微笑み、シャツを蓮に合わせる。


「ほらっ!思ったとおり。
蓮の髪の色が綺麗に映えるわ」


「……。」


「…駄目よ。
今夜は、あたしの言う事聞いてくれる約束でしょ?
ちゃんとした食事の席なの、正装しないと。」


嬉しそうに浮かれている母親を見るのは、嫌では無い。
蓮は渋々頷く。


女手一つで俺を育てあげた。
苦労もしただろう、幸せになって欲しいと思ってる。
仕方がない、言われるがまま…だ。


テーブルに並べられた衣服一式をかき集める。


「顔洗って、ヒゲも剃るのよ。
ちゃんとすればイイ男なんだから。」


ちゃんとすれば…ね。

だが残念な事に、顔を洗ってもヒゲを剃っても別に変わりはしない。
なぜなら、俺と関わる人達は必ず俺の醜さに戸惑い目をそむけるから。
俺は異質なのだ。


「…はい、はい、ちゃんとしますよ。」


蓮は気のない返事をして風呂場にむかった。