飛べない黒猫

パソコンの打ち込み作業の手を休め、蓮は冷えた珈琲を飲み干した。


2Fの真央の部屋からは、今流行のKーPOPが大音量で流れている。
美香がCDを持ってきて、真央に聞かせているのだ。


数日前2人は大喧嘩していた。
だが、その後も美香は真央に会いに来ている。

美香は蓮に会う為だと言っているようだが、それだけが理由でない事は2人を見ていればわかる。

なんだかんだと言いながら、お互い気が合うのだろう。


美香は命令口調ではあるが真央の世話をやき、真央も反論するものの結局は美香と行動を共にしているようだった。



空になったマグカップを持ち蓮がキッチンへ行くと、洋子は夕飯の仕度をしていた。


「いいトコに来たわ。
ジュースとお菓子、2Fに持って行ってくれない?
お鍋に火をかけちゃったから、動けないのよ。」


カウンターに置かれたお盆には、緑茶と大福がセットされていた。


「随分、地味なおやつだな。」


「えっ?あぁ、うふふ…
美香ちゃんが持って来たのよ。
なんでも、真央ちゃんが食べたいって言ったみたいよ。」




階段を上がると、真央と美香の声が聞こえる。
また、なにか言い争っているようだ。


やれやれ…


蓮はノックしてドアを開けた。


「お取り込み中のようですが、姫たち、おやつの時間だぜ。」


2人はベッドに腰掛けて、ゲームの最中だった。
真央が携帯ゲーム機を持ち操作する横で、美香が画面を覗き込み指図している。


「きゃあ♡蓮さんだ、こんにちは。」


美香の声のトーンがガラリと変わる。