飛べない黒猫

蓮は、真央の膝の上でくたっと眠り込んでいるクロオを抱き上げ、自分の胸に抱く。


「鳩は、鳥だから。
獲物を探すのに、空を飛び回る。
生きていく為に。
猫は、空は飛べない。
でも、生きていくために狩りをするよね。
野ねずみや、スズメを仕留める。」


蓮は、クロオの両脇を持ち目の前に掲げる。

寝ぼけたクロオのカラダは、でろーんと揺れた。


「クロオは、どうだ?
ほら、こうやって抱いた時…後ろ足を縮める猫は狩りが上手いって言われてるけど…
ははっ、クロオの後ろ足はダラリと伸びている。
狩りは苦手かもね。」


迷惑そうにニャーと鳴いたクロオを、蓮は膝の上に乗せる。


「じゃあ、この3日間、クロオは何も食べてなかった?」


蓮はクロオのカラダを確かめるように触る。


「まったく変化無し。
やせ細っていないって事は、ちゃんと食事に有り付いていたんだ。
人見知りなコイツが、よそ様から餌を戴いたとは考えられない。
あの、カラダの汚れ具合を見ると、サバイバルな3日間だったはず。
俺が思うに…きっと、クロオは、燃えないゴミの日を知ってる。
生ゴミの中から案外豪華な総菜を頂いていたのかもしれない。」


「そんなぁ…ゴミって…」


「これはクロオの素晴らしい能力なんだよ。
生きる為の。
鳥のように広い世界は知らない。
家の近所がテリトリーだ。
でも、燃えないゴミの日を知ってる。
風の通る陽当たりが一番良い場所を知ってる。
雨風しのげて寝泊まり出来る所を知ってる。」


蓮は真央の顔を覗き込む。


「クロオは空を飛べないけど、狩りが出来ないけど、幸せに生きていける能力を身につけているんだよ。
それなのに真央は、飛べないクロオは意気地なしって思う?」