飛べない黒猫

「意気地なし?
そうかなぁ。
俺は、そうは思わないけど。」


蓮は、秋晴れの穏やかな青空を見上げる。


「いい天気だ。
鳩が飛んでるね…
気持ちよさそうだ。
真央も、あんなふうに大空を飛びたいんだ…」


真央もゴシゴシ目を擦り、涙を拭いて空を見上げる。


「空を?」


「さっき、未来にはばたきたいって言っただろう。」


真央はポカンと首をかしげ、「あぁ」とつぶやいた。


「それ…よく使う例えだよ。
大志を抱いた若者が、未来をに希望を持ってはばたくって言うでしょ?
卒業文集とかの決まり文句で。」


「そうそう、それ…よく使うよな。」


蓮は少し投げやりに言う。


「思うんだけどさ、若者はみんな、大志を抱いてはばたかなきゃいけないわけ?」


「えっ…
ま、まぁ…出来ることなら…みたいな…」


「よく考えてみろよ。
みんなが、はばたいてたら…うじゃうじゃ混んでて、嫌になるって。」


「…。」


突拍子のない言葉の意味を理解出来ずに、真央は戸惑っている。


「鳩は空を飛ぶのが得意だよね。
だから、自由に飛んで高い所から地上を見渡せばいい。
じゃあ、クロオは、どうだ?
ジャンプ力は結構あるけど、飛ぶことは出来ない。
でもさ、クロオには別の素晴らしい能力がある。
だから空を飛べなくてもいいと思うんだ。」