飛べない黒猫

真央のタオルを持つ手が止まる。

顔をあげて蓮を見つめ、何か言おうと息を吸い込み…思いとどまる。


「ん?…なに?」


蓮は聞き返した。


「自分の可能性を試します。
今までの、弱虫の自分から強い自分に変わります。
未来に向かってはばたきます。
だから、留学します…って言わなきゃ。」


「…うん?」


「わかってるのに…
正しい道っていうか、自分が取るべき方向は、わかってる。
どうするべきなのか、わかってる。」


「…どうするべきなの?」


真央の目から涙がこぼれた。


「チャンスは何度もこないの。
チャンスの神様は、前髪しかないから。
通り過ぎる前に掴まないと…
もう、掴めないの。」


「うん、そうだね。
タイミングは大事だ。」


「神様がね、今、がんばりなさいって言っているの。
今、がんばれば…変われるよって。
今、がんばれば…理想の未来が待っているよって。
それなのに、無理なの…」


「…どうして無理なの?」


「ドキドキしないの。
全然、わくわくしない。
行きたい、学びたいって思えない。
みんな期待してくれてるのに、結局、応えられないんだ、わたし。
…意気地なしだから。」