飛べない黒猫

真央はシャンプーしたてのクロオを膝にのせ、ベランダに座る。

ぽかぽかと温かいひなたで、クロオのまだ湿った毛をタオルで拭う。


「クロオのヤツ、優雅にお昼寝かよ。」


蓮は真央の隣に座った。


「シャンプーの泡がね、ねずみ色になったんだよ。
びっくりだよ…」


真央は、まどろみ始めたクロオを気遣うように、そっとタオルで撫でる。


「ははっ、そりゃすごい。
冒険の勲章だ!
…次は真央の冒険だ。
留学の事、考えてみたの?」


蓮の問いかけに、真央はうつむく。


「まぁ、無理して行くこともないんじゃない?」


「でも…
大学行って、勉強して、色んな経験した方がいいよね、きっと。
そうした方が、お父さん、喜ぶと思う…」


「真央は行った方がいいと思っているんだ。」


「ん…
どうなんだろう、わかんない。
わたし、ステンドグラス作るの好き。
絵を描くのも好き。
あ、見るのも好き、他の人の作品って興味あるの。
美術大学に留学したら、きっといっぱい見る機会があるよね。」


「そうだね、本場だからな。
写真で見るのと、現物見るのとでは雲泥の差だろうし。
それに、真央のように美術を学ぼうとして、世界中から若き芸術家達が集まってるんだ。
刺激は受けるよね、ものすごく。」