飛べない黒猫

ノックの音がした。

青田が顔をあげると、岡田が一礼した。


「失礼します、社長…お呼びでしょうか?」


「あぁ、入ってください。
少し…話したいことがあってね。」


青田は席をを立ち、接待ソファーに移る。


「君は私の片腕となる優秀な部下です。
出来ることなら…私は君と争いたく無いと思っています。」


「…社長?
争うなんて…どういうことですか?」


岡田の顔色がさっと青ざめる。


「単刀直入に言おう。
何故、君は蓮くんの生い立ちを調べる?
わざわざ興信所に依頼してまで…
そして、マスコミにその情報を流した。」


「えっ…?
私が?…そんな事を…」


声が裏返り、ひどく動揺している。


「昨日、美香ちゃんが家に来てね。
真央と話しているが聞こえてしまったんだよ。
美香ちゃんは直哉君から、蓮くんの生い立ちを聞いたようだ。
それに…
ウチに来た記者、あの男と君は料亭小川で密談していた。」


青田は岡田を見据える。
ぶるぶると震える岡田は、青田を直視する事など出来なかった。


「私達家族を、世間の好奇の目にさらし破滅させてしまいたいのですか?
それほど憎んでいるのですか?
蓮くんが、それほど邪魔な存在なのですか?
君は、私達を陥れ、直哉君とこの会社を乗っ取ろうなんて…
馬鹿な考えを抱いているんじゃないでしょうね。」


青田は静かな声で冷静に容赦無く言った。