飛べない黒猫

家を出てから3日目の朝、クロオはひょっこり戻った。

体中埃まみれで、自慢の艶やかな毛並みはボサボサになっていたが、怪我もなく弱ってもいなかった。


「何処に行ってたのさ…心配したんだから…」


涙目で恨み言を繰り返す真央を気にするふうも無く、クロオはガツガツとゴハンに有り付いていた。


「痩せた感じも無いし…
こいつ、ちゃんとメシ食ってたな。」


蓮は真央の横にしゃがむ。


「えっ?どっかで貰って?」


「この出で立ちからすると…
ゴミ箱あさったりしたんじゃない?」


「そんなぁ、お腹こわしちゃうよ。」


「いや、俺は逆に見直したくらいだよ。
温室育ちのクロオがサバイバルな生活を送れるなんて…
たいしたモンだ。」


真央は不満げにクロオの背中を撫でる。


「もう、放浪の旅はおしまいだからね。
ちゃんと、お家に帰ってくれば、美味しいカリカリ食べられるんだから…
ねっ?クロオ…わかった?」


たっぷり入ったゴハンを食べ終え、クロオは大きく伸びをする。


「おなかいっぱいになったね。
さ、からだ洗おうか?
もう…体中ザラザラだよ。
本当に、いったい何処に行ってたの?」


まるで母親のような口調。
クロオは大人しく真央の小言に耳を傾けた。

蓮は笑いを堪える。


それでも満足げにニャアと鳴いたクロオを、真央はひょいと抱き上げてバスルームへと向かった。