真央が今回コンクールへ出展した作品は花火。

以前やり取りしたメールに、花火には思い入れがあると書いてあった。


最近よく母親の話をするようになった。

母親の死を引きずって怯えていた頃の、辛い思いではない。
死を受け入れ、愛情に満ちた楽しい思い出を話している。


心の中に残る母親への思いを言葉に出し確認する事で、真央自身の思いを整理しているようだった。


花火は、母へのレクイエム…
鎮魂曲なのだ。



「本当は、夜がキライなの…。」


「えっ?」


「夜空もキライ。」


「…なぜ?」


真央は、また歩き出した。


「引きずり込まれそうで。
真っ暗で、恐ろしい渦の中に引きずり込まれそうで怖かった。
そこは一人ぼっちで冷たい場所だから…
きっと、そこに引きずり込まれた時…わたしは死んじゃうんだなって思ってた。」


「誰だって、暗闇は怖いよ。」


「でもね…朝でも、お昼でも、その暗闇が出てくるの。
わたしを飲み込もうとして、少しずつ近づいてくるの。
そうすると、発作が起きて…目の前が霞んで何も見えなくなる…。」


真央はクルッと向きを変えて蓮を見る。


「でもね、もう怖くないの。
蓮が一緒にいてくれるから…
夜の道も、真っ暗な空も、もう怖くなんかない。
今はまだ蓮がいないと駄目だけど…
訓練していけば、一人でも平気になると思うんだ。
だから、もう少し…
もう少し、わたしと一緒にいて…」


真央の黒い瞳が街灯のライトを受けてきらきら揺れた。