真央がコンクールに作品を出展して1ヶ月が経った8月半ば。
夏祭りで表通りは賑わっていた。

以前から約束していた花火大会を、今夜、真央と見に行く。

浴衣姿の真央は、開け放したベランダに腰掛け、1人庭を眺めていた。


「仕度は万全?」


蓮の問いかけに振り向き、真央はニコッと微笑む。
濃紺にピンクと紫のアサガオの柄の浴衣に、赤い帯が映える。


「クロオにお友だちが出来たの。」


真央は庭の塀の上を指差した。

塀の上で2匹のネコが並んで外を見ていた。
沈みかけた夕日の逆光で薄暗く陰になり、どんな色のネコなのかは分からなかった。


「へぇ…何色のコ?」


「トラ模様のブチ。
だからブッチって呼んでるの。」


「ブッチね…」


クロオもっそうだったが…
真央が名付ける名前って、若干センスの良さに欠ける。


「野良猫みたい…
わたしを見ると、フーって怒るの。
クロオはブッチのワイルドさに惹かれたのね、きっと。」


「あはは、もしかして…
ブッチにヤキモチ焼いてるの?」


「ヤキモチなんて焼いてないよ。
ただ…赤ちゃんの時から、わたしと一緒で、わたしが呼ぶと必ず走って側に戻って来たのに。
今は、呼んでも…知らん顔して2匹でいるの。
女の子なんて持つものじゃないわ、大事に育てても、どっかの男にもってかれるのよ…」


それ…いったい、どこで覚えてきたセリフだよ、まったく。


「真央はクロオのお母さんなんだろ?
それなら、もっと大きな心で2匹の事を受け入れてやんなよ。
子供は自立していくもんなんだぜ。」


「わかってるよ…」


真央は遠くの2匹をジッと見つめ、寂しそうにつぶやいた。


「さ、せっかくかわいい浴衣着てるのに、そんな暗い顔していたら台無しだ。
そろそろ行こうか?
今日は風もないし、花火キレイに見えるよ。
早く行って、夜店もみるんでしょ?」


「うん!夜店も行く!」


真央は勢いよく立ち上がり、嬉しそうに笑った。