飛べない黒猫

「えっ…
蓮さんの父親が…?
嘘だろ…
それって確かな話なの。」


「あぁ、間違いない。
本人も知っているはずだ。
だから、おまえも、美香の気持ちをあおるようなマネはするな。
わかったな。」


「…わかった。」



直哉はタオルで髪をゴシゴシとふきながら、ソファーに腰かけた。


「それならさ、別に、俺が蓮さんの行動をさぐる必要なんて無いじゃん。
素性はわかっているんだから。」


「知りたいのは、彼が青田グループの役員になって、跡を継ぐかどうかだ。
会社に関わらないのであれば、犯罪者であろうが何であろうがどうでもいい。」


「それなら、問題無いと思うよ。
今日、俺が来春から青田建設に入社する事話したら、蓮さんは今の仕事を続けるって言ってた。
青田グループとは関わらないって。」


直哉は食事会での事を詳しく説明した。


「…まあ、当てにはならないだろう。
あえて口外しないだけかもしれないし、そうで無いにしても気が変わるかもしれん。
お前はできるだけ、彼に近づいて何かあったら報告してくれ。」


「…いいけど。
でもさ、青田の叔父さん達の問題だろ?
そんなの放っておきゃいいじゃない。」


「なんだ、お前…わからんのか?
彼がいなければ、将来青田グループは、お前が継ぐ可能性が大きいんだぞ?」


「へっ?俺が?
…まさか。」


直哉は、無い無いっと言って手を左右に振る。


「家族経営の小さな会社でもあるまいし、俺に出来る訳ねーだろ。
器じゃないって…
それに俺、出世欲とか全く無いし。
青田建設の入社だって、就職難のこの時期にコネで内定もらえて楽だから決めたぐらいだ。」


「会社に入って仕事すれば、それなりの出世欲も出るさ。
お前は、まだ何もわかって無いのだ。
つべこべ言わず、私の言う通りにしていれば間違いは無い。」


強い口調で岡田は言う。


「わかったら、さっさと寝ろ。
明日、講義あるんだろう?
ちゃんと卒業してもらわんと困るんだからな。」


「…。」


直哉は無言で立ち上がり、岡田に背を向け居間を出ていった。