飛べない黒猫

街灯の少ない暗い夜道を走り抜け、直哉は家の玄関をあけた。

日中の晴天が嘘のように、ポツポツと小雨が降り出してきたのだった。
直哉は濡れたシャツを脱いで、脱衣所に向かう。


「今帰ったのか?」


岡田が居間のから声を掛けた。

直哉は洗濯機のフタを開けて、濡れたシャツを投げ込む。


「まだ寝てなかったんだ…」


直哉は棚からタオルを取りだし、頭を拭きながら居間へと急ぐ。


「美香から聞いたんだが…
おまえも学校祭へ行くのか?」


岡田は一人ソファーに座って、晩酌しながらテレビを眺めていた。


「あぁ、蓮さんの事を探るには、もってこいだろ?
偶然、美香が声かけてさ、丁度良いと思って俺も同行。」


「どうだった?ヤツと話しをしたんだろう?」


「どうだったって…別に…。
あ、美香のヤツ、マジだわ。
蓮さんにマジに熱上げてるぜ。」


「そんなの、どうでもいい。
どうせ、すぐに冷めるだろう…」


岡田は吐き捨てるように言った。


「なんで?
いーじゃん、美香が蓮さん仕留めたら…
青田家の嫁だぜ?
父さんにとっても、社内的にも万歳だろう?」


「馬鹿な!冗談じゃない。」


岡田は声を荒げる。


「あの男の父親は人殺しのろくでなしだ。
現に…洋子さんは見知らぬその男に強姦されて妊娠したんだ。
そんな異常者の血をひく子と、大事な娘を結婚させたがる親がどこにいる。」