飛べない黒猫

「違うのよ、真央さん。」


和野は、真央が狼狽えるのをわかっていたかのように、落ち着いて話し始める。


「初恋って…そんな感じかもしれないわね。
異性を意識し始める時期に、恋に恋しちゃうのよ。
何かのキッカケで…
真央さんの場合、好きって言われて意識するようになったのがキッカケ。
その子がどんな性格かも知らず、どこに惹かれたのかも無くて、ただ意識し合ってただけ。」


「わたしの恋は、恋じゃ無かったの?」


「いいえ、恋よ。
立派な初恋。
でもね、真央さんがこれからするだろう恋は、小学校の時の恋とは違うかもしれないわね。」


「恋に恋するのではなくて…その人に恋をする…」


「そう!そのとおり。
目を閉じると相手の顔が思い浮かぶし、仕草や内面的なものにも惹かれるようになるわ。
それが二度目の恋ね。」


「二度目の恋…」


「二度目の恋は、初恋とは少し違うのよ。
ドキドキだけでなく、苦しかったり切なかったり。
バラ色に輝いたり、胸がキュンとして愛おしくなったり…
相手を思いやる気持ちも強くなる。」


「わたしも…そんな恋をするの?」


和野の話を真剣な眼差しで聞いていた真央は、恐る恐るたずねた。


「えぇ、勿論するわ。
その時は…
恋して悩んだ時は、私を思い出して頂戴。
いつでも話し相手になりますからね。」


「和野さんがいてくれるなら…
わたし、とっても心強いです。」


和野は、胸を張ってポンと襟元をたたいた。


「お任せ下さい。
こう見えても恋愛経験者。
若い頃はモテモテだったのですからね…」


和野とのおしゃべりは尽きない。

和野は明日、田舎へ帰る。
真央は遅い時刻まで、和野の部屋で過ごしたのだった。