飛べない黒猫

「ヤキモチ…?」


真央は慌てて自分の気持ちを整理する。

蓮の事は好きだ。
でも、それは、父親や陽子や和野を好きなのと同じ。


「ヤキモチではないと思う…
恋愛の気持ちじゃないもの。」


恋愛って、まだわからないけれど…
それは、きっと燃えるように激しい感情で、ドキドキして苦しいはず。

どう考えても、当てはまらない。


「そうかしらねぇ。」


和野は真央の返答に対して、特に反論する事もなく微笑んでいた。


「うん、違うよ。
あっ…、そうだ初恋!
あのね、わたしが小学校に入学した時、同じクラスの男の子がね、わたしの事を好きだって言ったらしくて。
お友達が教えてくれたの。
そうしたら、なんだかわたしもドキドキしちゃって…。」


「あら、あら、ずいぶん可愛い初恋ね。」


「その子に消しゴム貸してって言われた時、まともに顔も見れなかった。
恋って、すごくドキドキするものだから。
蓮は大好き。
でも、ドキドキしないから恋愛じゃないの。」


「その子の顔、今でも覚えてるかしら?
名前は?どんな性格の子?」


…えっ?
真央の笑顔が固まる。


「…名前、じゅんや君。
苗字は…覚えていない…。
顔…って…うーん。
話したりしなかったから、性格とか…わかんない…。」


間違いなく初恋の相手なのに。

好きだったのに。


「もしかして…初恋語る資格無し、かも…
覚えてないなんて…自分でもびっくり…」


教室の席の場所や、友達の顔は覚えているのに、その子の顔だけは、モヤモヤと輪郭さえハッキリしない。