飛べない黒猫

「来年、僕は大学を卒業して青田建設に入社します。
蓮さんとも会う機会が増えると思うから…」


事務的な口調。
彼が俺に接する理由は、いとこ同士というフレンドリーな関係を求めているのではない。
青田建設社長の義理の息子への社内的体面ってわけだ。


「会うもなにも、俺は細々と事業を切り盛りしているコンピューターシステムのプログラマーだ。
青田建設とは、特に繋がりは無いから。」


「えっ?
あなたが後継者になるんじゃ…」


「そんな話は、したことないよ。
それに、俺…
会社勤めに向かなくてさ、脱サラして独立。
どうも集団生活って苦手だから。」


「そうなんですか?
勿体ないな…」


「なんで?」


「えっ…なんでって…
だって、せっかく恵まれた環境で働けるのに、それをいかさないなんて…」


直哉は不思議そうに答えた。


「恵まれた環境かぁ…
そうだな、青田建設グループ…堅実に安定した経営を行っていて着実に実績を積んで発展しているよね。
青田社長も経営者として尊敬できる素晴らしい人だと思うよ。
だけど…」


蓮は直哉を真っ直ぐ見る。


「俺には俺の居場所がある。
俺にしか出来ない仕事がある。
それをやりたいんだ。
自分で納得出来る仕事をするには、企業の歯車の1つじゃ無理だった。」


「…そうなんですか。」


腑に落ちないといった顔をしていた直哉だったが、蓮の言葉をすんなり受け入れたようだった。