飛べない黒猫

「お料理して…美味しいって言われると、すごく嬉しい。
最初にね、トマト切ったの…庭でとれたトマト。
和野さんがね、“真央さんが切ったトマト、切り方が上手で美味しい”って言ってくれて…
自分でも食べてみたら、なんだか美味しく感じて…」


恥ずかしそうに真央は笑った。


「お父さんも、美味しいって喜んで…
わたし、すごく嬉しくて。
お料理って楽しいって思ったの…
ホントは、庭でとれたトマトが美味しく育っていただけなのにね。」


残り一かけを、ひとくちで食べ、蓮は珈琲を啜る。


「そうじゃないよ。
だってさ、この珈琲…
同じ豆で、同じ水道の水で作るのに、真央が入れてくれると美味しいんだよね。
自分で入れたのと味が違う。」


「…違う?」


真央は首を傾げて、カップに注がれた珈琲を啜る。


「作り手の愛情がプラスされるのと、それを食べる方の気持ちもプラスされるんだよ。
真央が、珈琲を入れてくれた。
俺を気遣って入れてくれたんだな。
うれしいな。
そんなふうに幸せを感じて飲むから、余計に美味しいんだ。」


「…うん、そっか。
そうだね。」


真央は、マグカップの中の珈琲を見つめ、もう一度飲む。


「一人で飲むより、蓮と飲むと美味しい…
自分で入れた珈琲だけど。
幸せを感じて飲むから…美味しい。」


「そーゆーこと!」


君は、俺といて幸せを感じてくれるのか?
それは、家族として
兄として
それとも…男として

君の瞳に映る俺は、どれなんだろう…

テーブルに頬杖をつき、珈琲を飲みながら蓮は真央を見つめていた。